『 スウィート・スウィーツ ― (1) ― 』
− そこは お菓子の国 だった ・・・ !
悪夢などという甘っちょろい言い方ではとてもとても − な日々を
なんとか掻い潜り ・・・ ここに辿り付いた。
「 旧友がおってな。 とりあえずここに逗留する 」
ドクタ―・ギルモア モニター上の地図を差し
相変らず冷静沈着な表情で言った。
「 ― 了解。 港はある? 直接接岸 可能か? 」
メイン・パイロットの赤毛も 無表情に返す。
「 今 調査中だよ。 ・・・ う〜ん 上陸は夜間の方がいいかな 」
「 もう少し接近したら 詳しくナヴィするわ。 」
「 よろしく。 時間、あるからゆっくりできるよ 」
「 あら そう? 穏やかな海みたいね 」
レーダーと分析を担当する黒人青年と金髪娘の声は こころなしか
弾んでいるふうに聞こえる。
ずっと張り詰めていた空気が ほんのすこし緩んできていた・・・
ゴーーーーーー ドルフィン号のエンジン音も快調だ。
「 ほな おいし〜〜御飯、つくりまっせぇ〜〜 」
太った料理人は 意気揚々と厨房に消えた。
「 ほう ・・・? トウキョウに近いのかね?
なかなか興味のある国であるからな ・・・
有名シアター もあるからなあ これは興味深々 」
俳優氏は 早速検索エンジンを開いた。
「 ウマいモノはあるかなあ〜〜 銘酒はなにか ・・・と 」
なんとなくざわざわし始めた艦内で ―
「 あ 」
サブ・パイロット席から 声が上がった。 呟きに近い小声が。
「 「「 え ?? 」」」
ほぼ全員が その声の主に視線を送った。
別に 素っ頓狂な大声 ではない。 むしろ小声だ。
周囲の雑音の中に 吸収されても不思議はない程度のモノ だったが。
?? なんだ??? ネズミかあ??
あ コイツかあ〜
へえ〜〜〜 声 あげたりするのか〜
赤毛は自動操縦を確認してから しげしげと隣席を見つめた。
え。 なになに〜〜〜?
あ。 もしかして知ってる土地なのかな
え〜〜〜 うっそ〜〜〜
大きな声、だすのぉ?? へえ〜〜
レーダーと分析担当二名も 驚きを隠さない。
艦内は いわば 静かに騒然と?した雰囲気になった。
― なぜなら。
サブ・パイロット席の新人は 担当業務にはとても熱心に取り組み
初めて という戦闘でもなかなかの手腕を発揮していた が。
ほとんどの時間 サブ・パイロット席に 黙って座っているのだ。
「 おい 交代だ、休憩に入れ 」
赤毛のパイロットが いささか乱暴に言っても
「 休憩時間だ。 キャビンに、戻れ 」
司令塔である銀髪が 半ば命令口調で言ったときも
あ ぼく。 あの ここで ・・・
新人は もそもそと口の中で呟くだけだったのだ。
「 ― 009。 なにかあったのか 」
銀髪が皆の視線を背負って? 尋ねた。
「 あ え いえ なんでも ・・・ 」
「 なにかあったから声を上げた のではないのか
報告しろ 」
「 え ・・・ あ あの〜〜〜〜〜
あの ― ぼくの母国で この近くにいたんだ ぼく 」
え〜〜〜〜〜〜〜 ???
へえ〜〜 マジかあ〜〜
うっそぉ〜〜〜〜 このコ ジャポネ なの??
コクピットで皆が声をあげた。
「 ! それを早く言え。 それなら地理には詳しいんだな? 」
「 あ ・・・ うん はい 」
「 着岸地点を調べて 最適な場所を示せ。
そして周囲の状況を ― 人家の状態などを報告だ 」
「 りょ りょうかい !
あ・・ うん あの辺りなら 誰もいないと思うけど・・・
特に夜とかはね 」
「 < 思うけど > ではなく確実性の高い正確な報告をしろ 」
「 あ ごめ ん ・・・ 」
新人は 慌ててレーダー画面と現地映像のモニターを覗きこんだ。
< そこ > に上陸し、しばし逗留する、と決めたのは
旧友 の勧めによるものだ、とドクター・ギルモアは言った。
サイボーグ達が その人物に実際に出会ってみると ―
ドクター・ギルモアの旧友 ― コズミ博士 ― は実に気のいい・・・
そして頭脳明晰 素晴らしい科学者だった。
みかけは好々爺なので 地元でも 長い間大学のセンセイ として
人望もあり このことはサイボーグ達にとってとても有益なこととなった。
コズミ先生のご紹介なら〜〜 ええ 喜んで(^^♪
こんな言葉をいろいろな場所で聞き、好意的な笑顔に迎えられた結果
― コズミ邸での滞在中 ドクター・ギルモアは
沿岸の崖地を購入することを決意した。
「 ほっほ あそこの地主サンとは旧知の仲じゃからな〜〜
快諾してくれたじゃろ? 」
「 ああ コズミ君の紹介状を出したら 即決じゃったよ。
あそこを買ってくれるだけでもありがたい とな 」
「 そりゃ〜〜 三方得 ということじゃな 」
「 三方?? 」
「 地主サン に 君。 そして ワタシもだよ。
近隣に旧友が住んでいる、というのはまことに嬉しいことさ 」
「 ― コズミ君 ・・・ 」
「 いやあ また楽しい日々が巡ってくるなあ〜
時に みなさんはどうなさる? 」
「 ああ ほとんどのメンバーは母国に帰る と。
ここに共に住むのは ワシとジョー。 しばらくの間 イワン。
あと フランソワーズも希望してくれたよ 」
「 ほうほう あの茶髪君とお嬢さん とな〜〜〜
そりゃいい・・・ よかったなあ 」
「 ふふふ まあ しばらく 家族団らん を楽しむさ 」
「 よいよい ・・・ 穏やかな生活を楽しみたまえよ 」
「 ― ありがとう ! 本当に 」
「 ほっほ・・・ そしてなあ またあの学生時代のように
時間を忘れて議論しようじゃないか 」
「 おお いいなあ〜〜 うん うん 楽しみにしている! 」
そんなこんなで ― まあいろいろあったが
ドクター・ギルモアは その土地に本拠地を構えることにしたのだ。
何と言っても 海に直接出られるのが最大の利点であった。
地上は 少々古風な広い洋館、 そして地下は深く格納庫を持つ。
「 諸君らの部屋はちゃんと確保してある。
いつでも帰ってきておくれ。 待っておるよ 」
そんな言葉を土産に 多くの仲間達は祖国に戻る決心をしていた。
― そんなある日 ・・・
「 ふうむ ・・・ そうか 」
英国紳士は しばらくモニターでなにやら地図映像をながめ
手元の路線図などを調べていたが ・・・
やがて ぽん、と手を打った。
「 なるほど ・・・ ヨコハマ か。 よしよし 」
彼は勢いよく立ち上がると 私室に戻っていった。
そして ― 半時間の後
「 あ〜 ちょいと出掛けてくるよ 」
俳優氏は 意気揚々と階段を降りリビングに入ってきた。
「 マドモアゼル? もし お時間がありましたら
吾輩とデートしていただけんか 」
「 え?? デート? 」
「 左様。 港ヨコハマ をご案内いたしますぞ 」
「 え ええ ・・・ でも わたし 服が ・・・
外出着って持ってないのよ 」
「 ああ ああ 構わんよ。 コートを羽織って行けばいいさ。
ヨコハマにはなかなか洒落たテーラーがあるぞ 」
「 え・・ でも ・・・ 」
「 ドクタ―からもなあ マドモアゼルにお洒落着を、と頼まれておるのさ。
そして 吾輩の服も見たてていただけんかな 」
「 え〜〜 わたしが? い いいの? 」
「 もちろん。 ああ 若いヤツらはそこいらの量販店で求めれば済むが
紳士に令嬢となると そうは行かん。 」
「 うふふふ ・・・ なんだか楽しそうね 」
「 ほっほ その笑顔だよ マドモアゼル。
眉間に縦じわ は そなたには似合わんさ
」
「 ・・・ グレート ・・・ メルシ ・・・ 」
「 まあ 一応吾輩の姪 ということでお願いしたい 」
「 了解。 伯父様? 」
「 そうそう その調子だ。
店の検索なんぞをしているから ― 半時間で用意できるかな? 」
「 します! 待ってて〜〜〜 」
ダダダダ −−−− 彼女は階段を二段跳びしていった。
「 ほ・・・ 003 にも加速装置が搭載されているのか〜 」
ふんふん〜〜〜 グレートはハナウタ混じりにスマホ検索を開始した。
さてさて ある晴れた早春の昼下がり―
グレートは フランソワーズを連れヨコハマ・モトマチに繰り出した。
彼が本国で馴染みだった老舗テーラーの日本支店に 足を延ばした。
そこで、氏のファンだ、という英国人の支配人と熱い握手を交わし
そして 欧州から来たばかりの姪っこ に レディの服装一式 を調達。
その後は港に近い老舗ホテルのテイー・ルームでアフタヌーン・テイを楽しんだ。
テイー・ルームの古風な欧州調のインテリアはこの二人の背景に
まことにしっくりとし 一幅の絵画にも見えた。
( 実際 隅の方ではこっそりスケッチブックを広げているヒトもいた )
高い天井に 芳醇な香りが漂ってゆく。
「 ・・・ あ おいし ・・・ いい香ね〜〜 伯父さま 」
「 左様 左様 これは 本場モノの茶葉だな 」
「 ティ ってこんなに美味しい飲み物だったのねぇ 」
「 ふっふっふ 認識を改めていただけましたかな 」
「 はい 伯父さま。 ・・・ ケーキも美味しい〜〜〜 」
「 ああ まったく。 これはこの国のオリジナルだな〜〜
クリームの具合は芸術的だ 」
「 そうね そうね あ〜〜〜 おいし〜〜い♪ 」
パリジェンヌは年齢相応の笑顔で ケーキを平らげてゆく。
― そうだよなあ ・・・
のんびりテイ・タイム なんて生活とは
ずっと無縁な日々だったからなあ
グレートは この年下の仲間が不憫で仕方がないのだ。
彼女もまた 舞台芸術に関っている、という事情も加わり
なんとか 応援したい、と密かに願っている。
「 なあ マドモアゼル。 この国は ― とくにこの辺りは
暮らしやすいはずだ ― 我ら ガイジンさん には な 」
「 ガイジンさん ?? 」
「 左様。 外国人のことだが なに、どこの国でもいいのさ。
ミナト・ヨコハマ が近いからなあ 古くから外国人を受け入れている。
まあ 異国人に慣れているのだろうね。
あのテーラーも このホテルも 本店はロンドンだ。 」
「 まあ そうなの? 」
「 帰りにモトマチ商店街を見てゆけばいい。
マドモアゼルの国の店も 多いはずだよ 」
「 ・・・ え そう?? パリの店もあるかしら?? 」
「 ― うん ・・・ ここは若いモノ同士の方がいいかな。
アイツを呼び出そう 跳んでくるよ 」
「 ・・・ ジョー のこと? 」
「 ほうほう さすがにピンとくるかな?
奴さん、この地域の出身だ、と言っておったからな〜〜
案内役 兼 ボデイ・ガード には最適さ 」
「 うふふ 009がボデイ・ガードなら安心ね 」
「 と 思いたいが。 とにかく地理的には任せられるよ。
一緒にウィンドウ・ショッピング するもよし・・・
ああ Gap とかもあるから ヤツに服を見たてておやり 」
「 あらあ〜〜 うふふ・・・ そうねえ
いっつも同じトレーナーにジーンズ ですものねえ 」
「 だろう? こちらも頼む 」
「 はあい。 あ グレートは? 」
「 うむ。 県民ホールの近くに 知り合い主宰の劇団があってな
ちょいと顔をだしてくる 」
「 まあ すてき! いってらっしゃい。
・・・ また 舞台に立てるといいわね 」
「 ありがとう。 マドモアゼル お主もだよ 」
「 え ・・・ 」
「 ・・・ 」
名優氏は に・・・っと笑い 令嬢の手を恭しく取ると
軽くキスをした。
「 お ・・・ おまたせ〜〜〜〜〜 」
はたして茶髪ボーイは本当に息せき切って 髪を振り乱してやってきた。
「 ジョー ・・・ え まさか走ってきたの? 」
「 はっ はっ はっ・・・ う うん ・・・
ひゃ〜〜〜 ここの駅 ホームが最地下だってこと、忘れてたあ〜 」
約束の時間の五分前に、文字通り < とんできた > ジョーは
私鉄の改札口で 大息を吐いている。
「 ・・・ 大丈夫? まさかエスカレーター・・・
全部 駆け上がってきたの? 」
「 う ん ・・・ 時間 おくれない ようにって・・・
はっ はっ・・・ きみがひとりで まってるから ・・・ 」
「 ありがとう! ねえ どこかで少し休む?
あ ほら・・・ あそこに すたば があるわ 」
「 ・・・ え ・・・ あ〜〜 もう大丈夫・・・
スタバってさ 高いからもったいないよ。 は〜〜〜〜
うん もう平気さ。 ねえ どこへ行きたいのかな ? 」
「 あ ちょっと待ってね・・・ 」
フランソワーズは 自販機に駆け寄った。
「 え〜〜と レモネードとかあるといいんだけど・・・・
これは おちゃ ね。 こっちは ・・ ぼす ってなにかしら??
あ なとかレモン ってこれ きっとレモネードね 」
黄色いペットボトルを買うと 彼に差し出した。
「 これ・・・ 飲んで一息ついてください。 」
「 ひゃあ〜〜 ありがと〜〜〜 うわあ 久々だなあ〜 」
ジョーは笑いながら イッキにボトルの半分を飲み乾した。
「 〜〜〜〜ん〜 すっぱうま〜〜 あは ありがとう! 」
「 ・・・ すご ・・・ 」
「 ?? なに? 」
「 え あ ううん ・・・ それで よかった? 」
「 うん 美味しいよ〜〜〜
ねえ グレートからフランスのスウィーツ店を案内しろって
言われたんだけどぉ ぼく よくわからなくて 」
「 あ あのね ここ・・ ず〜っといろいろなお店がならんでるから
見てゆきたいなあ ・・・って 」
「 あ いいね〜〜 ウインドウ・ショッピングには慣れてるよ 」
「 まあ そうなの? ジョーはこの街に詳しいの? 」
「 あ〜〜 そうじゃなくて さ
ぼく お金なかいからいっつも < 見るだけ > 」
「 ・・・ あ そうだわ! まずね 最初に 一緒に行きましょ 」
「 え あ いいけど ・・・ 」
「 さあ こっちよ〜〜〜 」
「 う うん あ あ〜〜 」
フランソワーズは くすくす笑いつつ彼を改札口に近い Gap の店内に
引っ張っていった。
― しばらくして。
しち〜ぼ〜い と 金髪のお嬢さん がモトマチの舗道を歩いてゆく。
「 ・・・ え え〜〜と こっちでいいかな 」
「 ええ ありがと。
うふふ・・・ ジョー そのパーカー、似合ってる〜〜 」
「 あ そ そっかな〜〜〜 えへ あったかいし〜
フランって選ぶの、上手だね〜〜 オトコ物でもさ 」
「 ああ わたし 兄がいるから・・・
よくね一緒にショッピングいったりしてたの。 」
「 あ そか ・・・ えへへ なんか嬉しいな〜〜
ぴったりサイズのって あんまり着たことないんだ 」
「 え ・・・ どうして? 」
「 う〜ん ほら ぼく、教会の施設で育っただろ?
寄付の衣類とかの中から だいたい合うサイズのものを
選んで着てたから さ 」
「 ・・・ そう ・・・ 」
「 ふんふ〜〜ん♪ あ あそこにチョコレート屋があるよ 」
「 え どこ ・・・ まあ ゴデイバ だわ! 」
「 あのチョコって フランス製なの?
なんかさ〜〜 一粒づつ売ってて ホントにチョコ?? って
思ってんだけど ・・・ 値段も 」
「 あ〜 あれはねえ ベルギーのチョコレートなのよ。
パリでもね 一粒づつ売っていたわ。 」
「 ふうん ・・・ 高級チョコかあ 買う? 」
「 ん〜〜〜 いいわ ウィンドウから眺めて楽しむわ 」
「 いいね! なんかさ アクセサリーみたいだね 」
「 ふふふ ホント! わたしも食べたことってほとんどないのよ 」
「 そっか〜〜 へへ こうやって眺めてるのも楽しいね 」
「 ね♪ 」
くすくす笑いながら ショッピング・ロードを並んで歩き
国際ストア で フォーション や コ・テ・ドール の
チョコレートを見つけた。
「 わあ〜〜 これ 好きなの! 買ってもいいかしら 」
「 いいよぉ〜 もちろん! あ これ 象のマーク?
へえ おもしろ〜〜 」
「 そうなのよ〜〜 わりと手軽な値段でしょ 美味しいの! 」
「 うん うん 」
乳製品のコーナーでは パリジェンヌは目を輝かせた。
「 きゃ〜〜 キ・リ のフロマージュ〜〜
あ ラ・バッシュ・キ・リ のもあるわあ〜〜〜 」
「 え これチーズなの?? キューブみたいだねえ 」
「 うふふ あのね これ全部味が違うのよ 」
「 へ〜〜〜〜 あ このマークの牛、笑ってる〜〜 」
「 でしょ? ほら これはハム味 こっちは ペッパーよ 」
「 ふうん ねえ いろいろ買おうよ 」
「 ええ あ クラッカーも買ってゆくわ。
ワインと一緒に楽しめるわ 」
「 ・・・ お酒? ・・・ ぼく 未成年なんだ 」
「 お家でなら いいんじゃない?
ワインはお水とあまり変わらないわよ 」
「 へ〜〜〜〜 」
路面店で買ったジェラートの懐かしいシトロン味に感激し
そして フランスパン という名のこの国風のバゲット は
( 明日の朝食用に求めたのだが ) ― 滅茶苦茶オイシかった !
・・・ これってホントに バゲット???
なんか お菓子みたい〜〜〜
「 ん〜〜〜〜 ねえ ジョー。
この国の食べ物は ホント美味しいわねえ〜〜 」
「 あ そうかな? うん くだものとかも美味いよぉ 」
「 そうよね!! イチゴとか大きくて甘くて すごい!
もうね、お菓子かと思ったわ〜〜〜 」
「 パンもさあ 今後 菓子パン とか紹介するよ。
めろんぱん とか 胡桃チーズ とか チョココロネ とか。
女子に人気さ 」
「 メロンぱん??? パンにメロンが 入ってるの??? 」
「 え〜〜〜 あ そう思うかあ・・・
コンビニにもあるからさ 買って帰ろうよ 美味しいよ〜 」
「 メロンのパンが?? ふうん ・・・ 楽しみ〜〜〜 」
「 うふふふ〜〜〜 」
「 ― あ!!!! ねえ ここは 何屋さん??? 」
タタタタタ −−−− ぴた。
彼女はある店のショーウィンドウに張り付いてしまった。
そこは ジョーでも知ってる老舗の超有名・和菓子店。
― フランソワーズは 和菓子 と出会ってしまったのだ。
ぴかぴかに磨かれたショー・ケースの中には ふっくりした梅花やら
細石みたいなミモザ 香りたかい和水仙 そして 季節先取りの桜花 ・・・
そんな 花々が華麗に咲き誇っていた。
「 ・・・ ジョー ・・・ これは なあに???
お花 よね? ・・・ アクセサリー? それとも 陶器?? 」
「 え あ〜〜 これ お菓子さ。 和菓子だよ 」
「 え おかし・・・? スウィーツ なの??
もしかして ・・・ 食べられる の ??? 」
「 ウン。 高級なのって食べたことないけどさ ・・・
これ だいたい餡子でできてるんだ 」
「 え!? アンコって あのお饅頭の中に入ってる黒くて甘い
・・・ アレ? 」
「 うん。 これさ〜 ぜんぶいっこいっこ手作りなんだって。
地元紹介の番組で見たこと あるんだ 」
「 ・・・ そう ・・・ ! 」
「 買ってかえる? 梅のとか 丸っこくてカワイイよね 」
「 ・・・ 今日は やめておくわ。
わたしの舌が もっとこの国のスウィーツに慣れてから
頂くことにします ・・・ 」
「 あ〜〜〜 もっと気楽に楽しんでいいんじゃない?
和菓子っていろいろあるよ〜〜〜
ぼく どらやき とか たいやき 好きだな〜 」
「 どら やき? どら ってなあに??
たいやき?? タイってお魚の鯛をやいたの?? 」
「 あは 違うよぉ たい焼きなら熱々焼きたて〜〜を
売ってるから食べようよ こっちさ 」
「 え え??? ジョー 知ってるの? 」
「 ウン。 あは ぼくはこの辺り よ〜くふらふらしてたんだ。
もっとも 裏道 だけどね〜〜 さ こっち 」
「 え ええ・・・ 」
手を繋いで 裏道をゆくと ― 行列が見えてきた。
「 あそこ さ 」
「 ?? お店 なの? なんか普通のお家みたいだけど 」
「 ちっちゃな店でさ オヤジさんが一人で焼いてるんだ。
でもね め〜〜〜〜っちゃウマい! 」
「 たいやき ・・・? 」
「 そ! 値段もリーズナブルだしね さあ 並ぼうよ 」
「 ええ ・・・ ね いろんなヒトがいるのね 」
フランソワーズは周りをこそ・・・っと見回している。
「 うん ここはさあ 地元のヒトしか知らないんだ。
あ こんちわ〜〜〜 ども 」
ジョーは 振り向いて手を振ってるオバサンに ぺこり、とアタマを下げた。
「 ・・・ 知り合い? 」
「 あ〜 この店でよく会うだけだけどね 」
「 ふうん 」
「 皆 そんなモンだよ あ いくつ買おうか 」
「 え〜と 今日 ウチにいるのは ・・・ 」
指折り数える彼女を ジョーはにこにこ ・・・ 眺めている。
「 ・・・ なあに? 」
「 え あ ・・・ なんかいいよね〜〜〜
家族の分 買ってかえろう〜〜〜っていうの 」
「 そ う?? 普通じゃない? 」
「 ― 普通は ね。 あ 次だよ〜〜〜 」
「 わあ ジョー!!! お魚が 焼けてる〜〜〜
・・・ これが たいやき なの?
うわあ〜〜〜 いいにおい〜〜〜〜」
「 ぴんぽ〜〜ん♪ あ コンチワ〜〜〜 」
ジョーは たい焼き機を操っているオヤジさんに親しげに声をかける。
「 ・・・ おう 茶髪の兄ちゃん 久しぶりだなあ 」
「 えへへ また来ちゃったデス 」
「 コンニチワ 」
フランソワーズは 習慣的に挨拶をしたが オヤジさんは
ちょっとびっくりした顔をみせた。
「 アリガトよ お? べっぴんさんだねえ カノジョさんかい? 」
「 ・・・ えへ 」
ジョーは泣き笑いみたいな顔で肩を竦めてみせた。
「 そっか〜〜 ま 頑張れよぉ〜〜 で 何匹? 」
「 あ 〜〜 えっと 」
ほっかほかの包を抱えて ― 帰りはゆっくり駅まで歩いた。
「 ん 〜〜〜〜 いいにおい〜〜〜〜〜 」
「 だね(^^♪ ホントはさあ 焼きてたが最高なんだよぉ 」
「 でも 皆と一緒に食べたいじゃない?
こんなに美味しそうなんだもの 」
「 そだね ・・・ うん ウチで食べよう!
熱々にして食べようよ。
」
「 うふふ ・・・ ねえ どうしてお魚の形なの? 」
「 え ・・・ さ さあ〜〜〜〜〜???
ムカシっからこうなんだ 鯛焼き って 」
「 ふう〜〜ん 」
「 あ ごめん ・・・ オシャレしてるのに
鯛焼きなんて ・・・ 」
「 え 〜〜 どうして??
わたし すご〜〜〜く楽しいわ。
ねえ ねえ ジョーお勧めのスウィーツとかスナック、教えて! 」
「 あ ・・・ うん ・・・ いいけど 」
「 けど?? 」
「 あの すげ〜庶民的なもん ばっかだけど ― いい ? 」
「 うふふふ いいわよぉ〜〜〜
だって わたしだって < しょみん > だもん。
今日のこの恰好は グレート伯父さま にお付き合いしたから よ 」
「 ― ぼく 好きだよ 」
「 え?? そうね〜〜 鯛焼きは美味しいわねえ〜〜 」
クスクスクス −−−
「 あ 待って〜〜〜 」
ジョーは 笑いつつ駆けてゆく彼女を 慌てて追いかけ始めた。
Last updated : 02.21.2023.
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他愛もない 甘いモノ 話 ・・・・・ これ平ゼロ93 ですな
ガイジンさんは どら焼き とか好きな方 多いですにゃ☆